2023.08.24

板垣恵介×SKY-HI オフィシャル対談レポート!!


アニメ『範馬刃牙』は、連載時期も話題をかっさらった『地上最強の親子喧嘩編』にいよいよ突入。本作に主題歌で力強く華を添えるのは、原作の大ファンでもあるSKY-HIさん。板垣先生とSKY-HIさんの世界観のコラボレーションを、トークでもご堪能あれッッッ!
 

“喰らう”ということをどう書くか考えた

 

 
——SKY-HIさんはアニメ『範馬刃牙』2期の『地上最強の親子喧嘩編』で、主題歌を担当されます。OP曲の『Sarracenia』はご自身が歌い、ED曲の『Salvia』は楽曲制作に携わり、プロデュースしているBE:FIRSTが歌唱を担当しています。まずは、楽曲制作の経緯を伺えますか。
 
SKY-HI:お話をいただいた段階で、親目線と子目線での1曲ずつを制作させてもらえるということでした。刃牙シリーズの話題って、主人公の刃牙以上に父親である範馬勇次郎の話で盛り上がることが多いと思うんですよね。勇次郎の曲を書かせてもらうことに対するプレッシャーはもちろんありましたが、彼の気持ちにシンクロする作業はとても楽しかったです。あとは自分の人格と乖離しないように……、自分の人格を保ちながらちゃんと勇次郎の歌になるようにと強く意識したことは覚えています。なんというか、コスプレにしたくなかったんですよね。
 
——楽曲として、コスプレみたいにならないように、ということでしょうか?
 
SKY-HI:自分の歌として自立していないと、勇次郎の歌として不適格なのでは、という想いはすごくありました。
 
——タイトル『Sarracenia』は食虫植物のことですが、ここに込めた意味は?
 
SKY-HI:サラセニアは花言葉が“風変わり”“変わり者”なんです。世の中から変わり者と見られるか、それとも自分が正しくて世の中のほうが変わっていると捉えるか。そういう考え方を、勇次郎から教わりました。そして「喰う」ということをどう書くかは、楽曲を作る上で一番気にしたところかもしれません。強い人を表現する歌で、「強い」と言ってもしょうがない。勇次郎を表現する上で“喰らう”ということをどう書くかと考えた時に、サラセニアはしっくりきましたね。他の生き物を喰らって生きることは、人間は当たり前にやっているんですけど、一人称が植物になると一気に怖く見える気がするんです。食虫植物が怖く見えるのって、すごく不思議で。人間のほうがどちらかというといろんなものを食べているのに、一人称を植物に置き換えると急に恐怖が湧いてくる。勇次郎も漫画の登場人物だからみんな楽しんでいるけど、リアルにいたら本当に怖いと思うんです。
 
板垣:今、「強いから、強いと言ってもしょうがない」と言っていたけど、確かニーチェだったかな、「オリジナルとは何なのか」ということに関する定義を言っていて。人がやらないことをやったとしても、それはただの変わり者。とっくにみんなが気づいてたものをまるっきり違う価値観で見せることができたときに、オリジナルと称えられるんだ、と。SKY-HIくんの話を聞いて、そのことを思い出しました。
 
SKY-HI:ありがとうございます! 「なぜ、あれほど勇次郎にカタルシスを感じるんだろう」という疑問を突き詰めた結果、みんな勇次郎になりたい気持ちがどこかにあるんじゃないかと。それを分解する作業を、ひたすらしていました。
 

父親が一番聞きたいのは「お見それしました」

 

 
——SKY-HIさんが本作のオープニング映像を見て感じたことは?
 
SKY-HI:自分が歌う楽曲を作るときは、二人称の視点をあまり考えないんです。「自分の中でどう思えているか」「どう捉えられているか」ということを、とても重視していて。キャリア的にもフェーズ的にも、いい意味で世間のリアクションに対してあまり雑念のない状態なので、それはクリアでいいことだと思っているんですけど。今回はいざ楽曲を書いてみて…、当たり前のことですが、自分の書いたものに合わせて勇次郎や刃牙が動いていることにびっくりして(笑)。改めて、恐怖やプレッシャーを感じました。すでに提出したものなので修正することは当然できませんし、自分の中で満足も納得もしているものを出しているんですけど、それでもまだ「果たしてこの作品に見合っているのだろうか」と考えましたし、感じました。その答えは先生から「見合ってるよ」と言っていただくしかないのかもしれませんが(笑)、今までにあまり経験したことのない葛藤と逡巡がありましたね。
 
——板垣先生は、楽曲を聴いていかがでしたか?
 
板垣:いやぁ、カッコイイね! 本人と声のイメージが、全然違っていて驚いたよ。
 
SKY-HI:よかったです。存外に、高い声を出しております(笑)。
 
——エンディングの『Salvia』には、どのような思いを込めたのでしょうか?
 
SKY-HI:刃牙目線で勇次郎のことを歌っているんですが、改めて「刃牙って勇次郎のことをこんなに好きなんだな」と感じました。“愛憎入り混じる”とは言うけど、愛の部分はシンプルに書きやすかったですね。刃牙って、連載開始からあんなに勇次郎のこと好きだったんですか?
 
板垣:多分、本人も気づいていなかったんじゃないかな。原点は、母親が勇次郎に殺されたというところから始まって。
 
SKY-HI:そうですよね。
 
板垣:でも描いているうちに、「どんどんリスペクトが入ってきているな」と。「自分の父親がこうあってほしい」という姿を、俺が投影しているんでしょうね。こんなふうにやりこめられたい。「やっぱり父親には敵わないんだ」と感じるのは、快感もあるんだろうと思えて。師匠や先輩や父親など、「かつて見上げた存在を追い抜くことが恩返しになる」と言うけど、俺は嘘だと思ってるから。一番聞きたいのは、「お見それしました」なんだよ。100歳になろうが「敵いません、お見それしました」と言われせることが一番の孝行だと思うし、「とうとう俺を抜く奴は現れなかったな」と最期に言えるのは快感だと思う。
 
SKY-HI:うちの父は、そういうタイプです(笑)。
 

娯楽として楽しんでもらえるのが一番

 
——『親子喧嘩編』は息もつかせぬ展開が続き、何よりもラストが本当に衝撃的でした。特にエア夜食で、刃牙が勇次郎の味噌汁を「しょっぱい」と指摘したのは……。

 
板垣:あのアイディアの発端はね、パントマイムを見たときに、彼の周りに壁があるようにしか見えないと思ったんですよ。重たいカバンを運ぶことに苦労しているパントマイムでは、本当に重さを感じる。これをさらに突き詰めていったら、料理の場合はまるでそこに料理があるかのように振る舞うのだろうと。「今、味噌がちょっと多くなかった?」と、普段とちょっと違うことまでわかる。見事なパントマイムになるほど、そういうところまで感じさせることもできるんじゃないかと考えました。肉体の傷つけ合いは描き切ったし、「まだ24ページあるけど、次回は一切戦わなくも大丈夫じゃないの?」という予測があって、ちゃぶ台返しをやっちゃったんです。「もう大丈夫、この2人ならやれるな」と。だからエア夜食は、取りかかるまで思い浮かんでいませんでした。
 
——最初からあった構想じゃないんですね!
 
板垣:ない、ない。どう決着つくか、わからなかった。「やっぱり勇次郎の勝ち」でもよかったな、と思ってるくらいです。
 
——SKY-HIさんが『親子喧嘩編』のアニメで楽しみにしているシーンは?
 
SKY-HI:「エア夜食で決着がつくと思っていなかった」という事実に対して、「確かに」と思う気持ちもあれば、驚きもあって。圧倒的想像力の話からスタートしていたし、一緒に食事をするとなかなかうまくいかないとか、全部の前振りが効いての最後でしたから。「こんなに納得のいくラストはないな」と読後は思ったんですよ。実際に生きていると「以前のあの経験が今役立つ」と伏線になることも多いですが、本当に“生きる”とそういうことになるんだなと、改めて実感しました。
 
板垣:“伏線”ということに関して、自分の考え方ではっきりこの形になったのは、経緯があって。過去に出した書籍の最後に、東日本大震災の被災者の方々に俺が何を言えるかを考えて……、「こんなひどい目に遭ったのならば、こういう目に遭わなければ手に入らなかったものを将来、手に入れてほしい」と伝えたいと思ったんですよ。本当にひどい震災でしたけど、逆に言えば君しかできていない経験。「あの経験をくぐらなければ、今の幸せは手に入っていない」というところを目指せば、つらい思い出も違った見方ができるようになるだろうと。むしろ感謝できるくらいのものを手に入れたら、自分の人生において書き直したいところがなくなるわけで。作品にもその考え方が表れて、「あんなことがあったんだ、この先はどう向かうのが一番いいんだ」とキャラクターたちが考える。それがうまくいったから、伏線だったと受け取ってもらえるんですよ。
 
——『地上最強の親子喧嘩編』を心待ちにしているファンにメッセージを!
 
SKY-HI:普通に生きていると「歯がゆい」「足りない」みたいな枯渇した感情はある程度付き物ですけど、その枯渇を埋めようとする作業は人間として一番美しい瞬間のようにも思います。『範馬刃牙』は、その尊さを与えてくれる気がするんです。いささか刺激が強いかもしれないですが(笑)、この作品を見る前の人生とは全然違うものになる。『地上最強の親子喧嘩編』に携わらせてもらえることは、音楽の仕事を20年やってきた自分も「こんな瞬間が来るんだ」と感激していますし、みなさんと一緒に感激できたらなと思います。
 
板垣:作品の影響を受けたという人の話を聞くのは好きなんだけど、そこを目標に描いてるわけじゃなくて、娯楽として楽しんでもらえるのが一番かな。僕自身もアニメは自分の描いたものとはまた別だと思っているので、娯楽に徹して楽しみたいと思っています。

ニュース一覧ッッ